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       2006.8.13


 NHKのBS放送音楽番組「毎日モーツァルト」を見ていると、いろいろと興味が持てる話題がたくさんある。
 その中の一つ、音楽劇「劇場支配人」(第117回7月18日放映、第118回7月19日放映)とシェンーブルン宮殿のオランジェリーの初演の話が、印象深く思えた。

アントーニョ・サルエリ
 1786年、オーストリア皇帝ヨーゼフ2世は、オランダ総督の来訪を機に、モーツァルトにはドイツ語の音楽劇を、宮廷作曲家サルエリにはイタリア語の音楽劇を作曲させて競わせるようする。サルエリは、モーツァルトより5歳年上で、24歳で宮廷作曲家になった。サルエリは数多くのオペラを作曲し、皇帝からの信頼を得ていたので、モーツァルトはかねてからサルエリにライバル心を抱いていた。そのため、モーツァルトは、「劇場支配人」の作曲に意欲を見せる。

 2人の競演会は、1786年2月6日、シェーンブルン宮殿オランジェリー(大温室)で開かれた。サリエリは、この時イタリア語の音楽劇「まずは音楽、お次は台詞(せりふ)」を上演する。

 モーツァルトの音楽劇「劇場支配人」は一幕の歌劇で序曲と5つの歌曲から成り立っている。
 1曲目は劇場のプリマドンナを目指すヘルツ夫人の歌。恋人のとの別れの時が近づいた女性の心情を歌う。

 3曲目はプリマドンナの座をめぐって競い合う2人のソプラノ歌手の歌。この時のヘルツ夫人役は、かってモーツァルトが思いを寄せたアロイジア・ランゲ(妻コンスタンツェの姉)。そしてジルバー・クランク嬢役は、ウィーンの花形歌手カタリーナ・カヴァリエリ。

アロイジア・ランゲ
 クランク嬢「プリマドンナは、私よ!」
 ヘルツ夫人「ジルバー・クランク嬢、プリマドンナは私よ!」
 クランク嬢「プリマドンナは、私よ!」
 ヘルツ夫人「プリマドンナは、私よ!」
 男性歌手「なぜ、ふたりはそんなに優劣を決めたがるんだい?」
 クランク嬢「私の歌声を聴いた人はみんな美しいと言ってくれるから」
 ヘルツ夫人「私の歌声を聴いた人はみんな美しいと言ってくれるから」
 男性歌手「みんなにそれぞれ素晴らしさがあるじゃないか」

 そして、第4曲は、優劣は自分ではなく、聴衆が決めるものであると気づき、おごりを捨てて、努力しなければならないと三重唱を歌うことになる。

 男性歌手「芸術家が驕りを覚えるとその輝きを失ってしまう」
       「芸術家は自分を輝かせるためには努力しなければならない」
       「ただの単なる個人よりも、みんなまとまってこそ美しい
        みんなが一つにまとまることが、私は最も美しいことだと思う」

 この音楽劇「劇場支配人」には、モーツァルトとサルエリの競演、そしてウィーンの花形歌手同士の競演の二つがあるというのが、面白しく感じられる。当時も、ウィーンの花形ソプラノ歌手2人の活躍もあって、大分盛り上がったようだ。

 こうした内容の曲を聞いていると、モーツァルトの作曲と言うこともあり、楽しくなってくる。それに、私たちが今、一流ソプラノ歌手の美しい声で聞いても華やかだ。モーツァルトの作品の中でも名曲の一つといえるだろう。

 ところで、この台詞を読み、作曲しながら、モーツァルトは何を考えていたのだろう?これは、モーツァルトの自戒の声かも知れない・・・・・。と思うと、いっそう親しみやすい曲になってくる。

シェーンブルン宮殿オランジェリー
 モーツァルトとサルエリの2人の音楽劇は、その後ウィーンのケルントナー劇場でも上演されたが、2人の作品には聴衆から惜しみない拍手が送られたという。



 ところで私が平成10年7月にドイツ、オーストリアを旅行した時に、ザルツブルグからウィーン着いたその晩、オプショナルツァーで「シェーンブルン宮殿のコンサート」があった。そして、そのコンサートは「劇場支配人」が初演されたオランジェリー(大温室)で行われた。ここで、「モーツァルトも演奏したことがあるようです」というようなことは聞いた気がするだが、「毎日モーツァルト」でこの面白い逸話のある音楽劇「劇場支配人」の初演が行われたと説明があり、見覚えのある建物が出てきたのは驚きだった。
 夜、暗くなってから行われるコンサートだったのだが、ツァー参加者のほとんどが参加。ポロシャツを着ていた男の人たちが全員、急にネクタイ、ワイシャツ姿になったので、ツァーのバス運転手が「あれれ・・・」と声を出して、われわれをからかった覚えがある。
 シェーブルン宮殿内のオランジェリー。「大温室」といっても、モーツァルトの時代からすでに、音楽ホールとして改造されていたことが分かる。今は、シェーブルン宮殿の「大温室」というと別の建物を指す。細長く、音楽用ホールとして作られたわけではないので、音響効果は良いとは言えない。しかし、夏のシーズンにはコンサートがほとんど毎日行われているようだ。

シェーンブルン宮殿オランジェリー内部

 プログラムは第一部がモーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」から、はじめに序曲が演奏され、その後、フィガロとスザンナが歌劇の時と同じような服装とカツラで登場、フィガロが「もしも、伯爵が踊りをなさるならば」を歌った。
 スザンナの歌は、もともと、特に有名な歌はなく、当時私はあまり、歌劇「フィガロの結婚」を細部まで聞き込んでいなかったので、曲名は分からなかった。今だったら、もう少し分かるかも知れない。また、プログラムが配られていれば大事に持って帰ってきたと思うのだが、その点残念な気がする。
 しかし、このコンサートはウィーンの人たちも沢山来ていたようだった。そうした聴衆は歌劇「フィガロの結婚」は当然、聞き慣れているので、「もう飛ぶまいぞこの蝶々」や「恋とはどんなものかしら」といったアリアは、かえって白けてしまうのかも知れない。
 二部のウィンナワルツでは、男女のペアのバレリーナが出てきて踊った。ウィンナワルツも曲数が多いので、知らない曲が3,4曲と多かったが、最後の二曲が「美しき青きドナウ」そして、観客が拍手参加する「ラディキー行進曲」が最後の演奏曲目となったた。

 手軽なコンサートではあったが、ウィーンの雰囲気を楽しめたコンサートだった。「毎日モーツァルト」のこの日の話で、当時の思い出が昨日のようによみがえってきた。

<完>